サステナビリティなどの取り組みが世界的に広がる中、日本の製造業も新たなグローバル競争に直面しつつある。そういった中、従来のサプライチェーンが変化し、新たな価値観を満たす「サプライウェブ」という考え方に注目が集まりつつある。海外メーカーの動向にも詳しい東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター、チーフエバンジェリストの福本勲氏の対談企画「DXエバンジェリストが斬り込む!」の2回目となる今回はサプライウェブに関する著書もあり、その道のオピニオンリーダーであるローランド・ベルガー パートナーの小野塚氏を迎え、日本のモノづくりの未来について、熱い議論が交わされた。
<対談者紹介>
目次
サプライチェーンからサプライウェブへ、その違いとは
――取引先が固定化する従来のサプライチェーンから、より柔軟に企業間が連携する「サプライウェブ」へと移り変わるというのが今回のテーマですが、まずその概要についてお聞かせください。まず、既存のサプライチェーンと、サプライウェブの違いについてどのように考えればいいでしょうか。
福本 自動車業界で言えば、従来はピラミッド構造の頂点にOEMメーカーがあり、Tier1、2などの企業がその配下にあって、電装品や部品をどの企業が作るかも固定化されていたと思います。自動車というモノを作るだけであれば、このままでもよいのですが、今後、さまざまな社会課題への対応を考えると新たな企業とのマッチングが必要になると考えます。これがサプライウェブの考え方の根幹にあるのではないでしょうか。サステナブルな取り組みを進めていくためには、信号などの社会インフラや他の自動車メーカーさんが製造された自動車とも連携する必要が出て来ると思います。また、EV化においては、車台が変わってインターフェースが標準化されていけば、現在のパソコンのようにさまざまなサプライヤーが、参加するようになっていくのではないでしょうか。ビジネスモデル自体が大きく変化していくと私は考えています。
小野塚 おっしゃる通りです。新しい取引先や販売先、調達先が生まれる時に、従来のように自動車メーカーがすべてをカバーしようとすると、莫大な投資がかかるでしょう。しかし、自動車メーカーがすべてそれをカバーするという時代ではなくなってきています。自動車とは関係ない取引先も増えるために、第三者がそれを仕組みとして提供する必要が出てきます。自動車メーカーなど元々サプライチェーンのハブとして自らシステムの開発と運用に投資をしていたような企業から見れば、外部のシステムを利用できるため、ある意味でビジネスの運用が楽になる可能性もあるでしょう。
「コトづくり」論の真相、「買わなかった理由」が分かることの意義とは
――そうした変化の背景に、ビジネスの考えが、モノづくりから「コトづくり」へと移っている流れがあると言われています。そのあたりについて、どのようにお考えでしょうか。
福本 従来の製造業のビジネスモデルはモノをつくってそれを提供して対価を得るというものでした。その時に重視されるのはモノの機能価値です。ただ、それだけですとお客様が作る側が想定していなかったような使い方をした時に対応できません。 今後は、お客様の経験価値を高めるために、モノにサービス的な要素を付加して、お客様、パートナー、場合によっては既存の競合企業とも連携して、価値を作るという考え方に変わっていくでしょう。そのためには、モノが将来的にどう使われる可能性があるのかを考える、システムシンキングやデザインシンキングなどを採り入れることが大事になっていきます。従来の競合や、従来考えていなかったような企業との異業種間競争も前提に考えるべきです。すると、競合企業は従来の競合メーカーに限らなくなり、業種を横断した競争が発生することになるでしょう。 また、顧客の使い方や環境に応じてモノが進化をしていくような取り組みも必要となります。「ソフトウェア・デファインド」のような手法はその1つだと考えています。
小野塚 はい同じ認識です。具体例を紹介しましょう。顧客などの情報収集について、これまでは自動車メーカーが自社で苦労しながらアンケート調査を実施してきました。現在は、違う形でさまざまな情報が取れるようになっています。情報を収集するプラットフォームができています。例えば機械の領域ではレンティオという企業があります。家電を買う前にレンタルで使えるサービスを提供しています。もしロボット掃除機などを自宅に購入したらしっかりと掃除をしてくれるのか。また油を使わずにから揚げを作る調理器具ならその機能が本当にすばらしいのかなどを、レンタルして一定期間に使用して確かめてから、満足すれば購入できるというサービスです。実際に、購入せずに期限が来た際に返す人も多いようで、ユーザーにとってはありがたいサービスと言えます。
面白いのは、企業が欲しい情報は、購入して満足してくれている人のものだけではないことです。なぜ買わなかったのかを知りたいわけです。レンティオが提供する仕組みでは、返す人に対して「なぜ買わなかったのか」の回答を求めています。メーカー側からすると、体験してもらわないと良さがわからないといった家電製品が売りやすくなる利点があります。また、買わなかった理由がフィードバックとして分かるということも重要です。未来の世界では情報が取りやすくなるのですが、それを得るために新たに投資しなくてはならないのであれば大変です。でも、実際にはこのレンティオのような第三者がどんどん増えていくということがこれからのポイントになっていきます。なので、サプライウェブの一例としてのレンティオのような形態のサービスを、いち早く利用した方がむしろローコストな事業運営が可能になると私は考えています。
福本 買わない理由がわかることは、大きいですね。マーケティングの観点でもとても大事な話だと思います。
小野塚 そうなんです。3ヵ月使って買わなかったということは、致命的な理由が存在している可能性があります。
福本 確かに、ECサイトであれば、カートに入れて放置しているなどといった情報が取りやすいですが、リアル店舗だと難しいですからね。手に取った商品を棚に戻したりした人やその商品を捉えることは、なかなかできなかったのではないでしょうか。
小野塚 インターネットの世界の話もしましょう。レシピ投稿サイトのクックパッドでは、投稿を解析するツールが生成した情報を企業などに提供するサービスがあります。もちろん、個人情報などは外してあります。それを見ると、カレーのレトルトパックをパスタにかけて食べているユーザーが見つかったりします。カレーのレトルトをハンバーグに混ぜて使ったり、それを餃子の中に入れていたりといった具合です。その情報の閲覧者が多ければ、クックパッドの情報サービスを利用する食品メーカーとしては「餃子向けのカレールーを作った方がいいかもしれない」となるわけです。
クックパッドとしては、投稿されたレシピの閲覧によって得られる広告収入が事業の柱ですが、付随して得られる情報でも企業から収入が得られるという一石二鳥のビジネスモデルを可能にするプラットフォームになっています。
福本 これも新しいプラットフォームですね。消費者向けにビジネスを展開する企業であれば、採用力の強化にもつながりそうです。
